ADHDの夫とHSPの暮らして気づいた「すれ違い」の正体
2万円のマウスピースを夫が捨てた――ADHDの夫と暮らして気づいた「すれ違い」の正体
2万円のマウスピースを、夫が間違って捨てた。
マウスピースはハンカチに包まれて、洗面所に置いてあった。
おそらく夫は、それをゴミだと思ったのだろう。
私は、それを知ったとき、
「なんで捨てたの?」
と言わないようにした。
責めるような言い方にならないように、何度も頭の中で言葉を選んだ。
そして、
「これね、マウスピースだったみたい」
と伝えた。
すると夫から返ってきた言葉は、
「じゃあ、もうゴミ捨てはしない。」
だった。
……。
私は、夫を責めたかったわけじゃない。
「捨ててしまったものは仕方ない。でも、これはマウスピースだったんだよ」
ただ、それを伝えたかっただけだった。
けれど夫には、私の言葉が違うものとして届いたらしい。
事実を伝えただけなのに「責められた」になる
こういうことが、わが家では何度も起きる。
私が、
「こうだったよ」
「ここ、違っていたよ」
「次はこうしてもらえる?」
と伝える。
すると夫は、その内容そのものより、
「俺が悪いって言うのか」
「俺のやり方を否定された」
「俺の何が悪いんだ」
という方向へ行ってしまうことがある。
私はいつも不思議だった。
私は「あなたが悪い」と言っていない。
なのに、どうしてそう聞こえるんだろう。
ADHDとASDは、別のものだけれど重なることがある
夫にはADHDの特性がある。
ADHDでは、不注意、衝動性、注意を持続したり切り替えたりすることの難しさなどがみられる。
一方、ASDでは、コミュニケーションや社会的なやり取り、こだわり、感覚などに特徴が現れる。
ADHDとASDは別の神経発達症だけれど、両方の特性を併せ持つ人もいる。
そして実際の生活の中では、
「これはADHD」
「これはASD」
と、きれいに分けられないことも多い。
ADHD・ASD・HSPの違い
ADHD ASD HSP 位置づけ 神経発達症 神経発達症 気質を表す概念 注意 注意がそれやすい、忘れやすいなど 興味によって集中に偏りが出ることがある 周囲の刺激に注意が向きやすい 衝動性 衝動的に行動・発言することがある 必ずしも中心的特徴ではない 基本的な特徴ではない コミュニケーション 話を最後まで聞く前に反応することなどがある 言葉の意図や社会的な文脈の理解に特徴が出ることがある 表情・声・雰囲気などを敏感に感じ取ることがある こだわり 興味のあることに強く集中することがある 特定の方法、習慣、興味などへの強いこだわりがみられることがある こだわりは中心的特徴ではない 感覚 感覚の過敏さなどを伴う人もいる 感覚過敏・鈍麻などがみられることがある 刺激を強く感じやすいとされる 診断 医療機関で診断される 医療機関で診断される 医学的な診断名ではない
※これは違いを理解するために簡略化した表です。実際の特徴には大きな個人差があり、重なる部分もあります。
わが家の場合は、どこに特性が見えるのだろう
「失敗した」が「自分を否定された」に変わるとき
今回、ハンカチに包まれたものをゴミだと思って捨ててしまったことには、不注意や確認不足が関係していたのかもしれない。
でも、
「これ、マウスピースだったみたい」
と言われて、
「じゃあ、もうゴミ捨てはしない」
となったことは、ADHDだけ、あるいはASDだけで説明できるものではないと思う。
もしかすると夫の中では、
「マウスピースを間違って捨てた」
という事実が、
「自分は失敗した」
になり、さらに、
「自分は責められている」
「自分を否定された」
へと変換されているのかもしれない。
もちろん、これはASDだからこうなる、という話ではない。
ADHDの感情調整の難しさ、不安の強さ、批判されることへの敏感さ、育ってきた家庭環境、その人が長い年月をかけて身につけてきた防御の仕方など、さまざまなものが関係している可能性がある。
問題は「何の特性か」だけではなかった
私はこれまで、
「これはADHDだから?」
「ASDの傾向もあるのかな?」
「どうしてこんな反応になるんだろう?」
と、夫のことをずいぶん分析してきた。
でも最近、少し違うところを見るようになった。
大切なのは、夫がADHDなのか、ASDなのかを私が突き止めることではない。
私たち夫婦の間で、何が繰り返されているのかを見ることなのだと思う。
わが家で繰り返されていた「すれ違いのループ」
<h3>ADHD・ASD・HSPの違い</h3><strong>【ADHD】</strong>
・位置づけ:神経発達症
・注意:注意がそれやすい、忘れやすいなどの特徴がある
・衝動性:考えるより先に行動したり、発言したりすることがある
・コミュニケーション:話を最後まで聞く前に反応してしまうことなどがある
・集中:興味のあることには強く集中することがある
・感覚:感覚の過敏さなどを伴う人もいる
<strong>【ASD】</strong>
・位置づけ:神経発達症
・注意・集中:興味によって集中に偏りが出ることがある
・衝動性:必ずしも中心的な特徴ではない
・コミュニケーション:言葉の意図や社会的な文脈の理解に特徴が出ることがある
・こだわり:特定の方法、習慣、興味などへの強いこだわりがみられることがある
・感覚:感覚過敏や感覚の鈍さなどがみられることがある
<strong>【HSP】</strong>
・位置づけ:気質を表す概念であり、医学的な診断名ではない
・注意:周囲の刺激に注意が向きやすい
・コミュニケーション:表情、声の調子、雰囲気などを敏感に感じ取ることがある
・感覚:音、光、においなどの刺激を強く感じやすいとされる
※これは違いを理解するために簡略化したものです。実際の特徴には大きな個人差があり、重なる部分もあります。
<h2>わが家の場合は、どこに特性が見えるのだろう</h2>これまでの夫との生活を振り返ってみると、こんな場面があった。
<strong>● 話を最後まで聞かずに反応する</strong>
→ ADHDでみられることがある。ASDでもコミュニケーション上の特徴として現れることがある。
<strong>● 聞いた内容を自分なりに解釈して怒る</strong>
→ ADHD、ASDのどちらでも起こり得るが、それだけで神経発達特性とは判断できない。
<strong>● カッとなって強い言葉が出る</strong>
→ ADHDでは、衝動性や感情調整の難しさが関係することがある。ただし性格や経験など、ほかの要因も考えられる。
<strong>● 運転中、他車や歩行者にイライラする</strong>
→ 衝動性や感情調整が関係する可能性もあるが、ADHDやASDだけで説明できるものではない。
<strong>● 人からアドバイスされると強く反発する</strong>
→ ADHDやASDの特性が影響する場合もあるが、批判への敏感さや、それまでの経験なども関係する可能性がある。
<strong>● 「こうしたら?」を否定されたと受け取る</strong>
→ ADHD、ASDのどちらでも起こり得るが、その人自身の受け取り方や経験も大きく関係する。
<strong>● 自分のやり方へのこだわりが強い</strong>
→ ASDでは、特定の方法や習慣へのこだわりがみられることがある。ADHDでも興味ややり方に強く集中することがある。
<strong>● ミスを指摘されると「じゃあ、もうやらない」となる</strong>
→ ADHD、ASDだけでは判断できない。感情調整、批判への敏感さ、防御反応など、さまざまな要因が考えられる。
<strong>● 相手の意図より、自分の受け取り方で反応する</strong>
→ ADHDやASDの特徴が影響する場合もあるが、これだけでどちらかを判断することはできない。
※ここに挙げたものは診断のためのチェックリストではありません。同じような行動は、性格、経験、不安、家庭環境などによっても起こります。
私が何かを伝える。
↓
夫が「否定された」と受け取る。
↓
夫が怒ったり、極端な言葉を返したりする。
↓
私は「また怒らせないようにしなくちゃ」と考える。
↓
言葉を選ぶ。
↓
それでも怒られる。
↓
もっと言葉を選ぶ。
↓
だんだん疲れてくる。
そして、
「じゃあ、自分でやったほうがいい」
となる。
「もうやらない」の先にあるもの
「じゃあ、もうゴミ捨てはしない。」
たった一言なのだけれど、この言葉が繰り返されると、言われた側にも変化が起こる。
空気が凍る。
↓
自分が悪かったような気がする。
↓
次から黙って自分でやる。
↓
頼まなくなる。
↓
相談しなくなる。
↓
期待しなくなる。
↓
話しかける回数が減っていく。
↓
同じ家にいるのに、ひとりで生活しているような感覚になる。
私がつらかったのは、マウスピースを捨てられたことそのものではなかったのかもしれない。
こうした小さなすれ違いが、何年も積み重なっていくことだったのだと思う。
HSPの私は「どう言えば傷つけないか」を考え続けていた
私は、人の表情や声の調子、その場の空気などを敏感に感じ取るほうだ。
だから夫に何かを伝えるときも、
「この言い方なら大丈夫かな」
「責めているように聞こえないかな」
「もっと優しく言ったほうがいいかな」
と考えてきた。
相手を傷つけないように言葉を選ぶことは、決して悪いことではない。
でも、それがいつの間にか、
「相手が怒らないように、私が言葉を管理しなければならない」
になってしまったら、話は違う。
夫の感情まで、私が背負うことはできない。
「夫の課題は、夫のもの」
私は夫の特性を理解したいと思ってきた。
ADHDについて調べ、コミュニケーションの方法を考え、
「こう言えば伝わるかな」
「こうすれば怒らないかな」
と、ずいぶん考えてきた。
理解することは大切だと思う。
でも、
理解することと、すべてを引き受けることは違う。
夫がどう受け取るのか。
夫が自分の感情をどう扱うのか。
間違えたときに、どう向き合うのか。
それは夫自身の課題でもある。
そして私には、自分の気持ちを伝える権利がある。
嫌だったことを「嫌だった」と言っていい。
困ったことを「困った」と言っていい。
相手を責めなくても、自分の気持ちまで飲み込む必要はない。
HSP・HSS型HSPとは
HSP(Highly Sensitive Person)とは、周囲からの刺激や、人の表情、声の調子、その場の雰囲気などを敏感に受け取りやすい気質を表す言葉。
医学的な診断名ではなく、「感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity)」という考え方をもとに広まった呼び方である。
HSS(High Sensation Seeking)型HSPは、繊細で刺激を受けやすい一方、新しい経験や変化、刺激を求める傾向も持つ人を表す言葉として使われている。
HSS型HSPも医学的な診断名ではない。
ADHDとは
ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性などを特徴とする神経発達症。
特徴の現れ方には大きな個人差があり、感情の調整や切り替えに難しさを感じる人もいる。
ASDとは
ASD(Autism Spectrum Disorder/自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションや対人関係、限定された興味や反復的な行動、感覚などに特徴がみられる神経発達症。
特徴の現れ方には大きな個人差がある。
また、ADHDとASDは別の神経発達症だが、両方を併せ持つこともある。
そのため、日常生活の一つひとつの行動について、「これはADHDだから」「これはASDだから」と簡単に判断することはできない。
この記事も、特定の反応をADHDやASDの特徴だと断定するものではなく、あくまで私たち夫婦の間で起きた「すれ違い」を、自分なりに考え、整理した記録である。

